小休止その2
教授とその助手の会話
「シノザキ君。GPSは必要な台数ちゃんとあったね?」
ホープニッツェル教授は助手に訊ねた。ホテルの一室のソファの上で、教授は書類をめくりめくり、頭を掻いていた。今回の実地調査に、カンパニーからの資金援助をとりつけられたのはほんとうによかったが、それは同時に神羅に対して大きな貸しを作ってしまうということでもある。見返りを求められることは必須だ。教授は無意識のうちに、胸にせり上がってくる不安を、目の前の調査準備に対する不安に転嫁してしまおうとしていた。
「大丈夫です」
助手は、パソコンを操作する手を休めることなく云った。
「わたしが納品まで見届けました。軍で支給されているのと同じ最新式です」
「そうか」
教授はため息をついた。
「それなら安心だ」
シノザキ助手は、熱心にキーボードをかたかたやりだした。必要なこと意外しゃべらないこの助手を、教授はときどき気味悪く思うことがあったが、才能があることだけは確かだった。彼には、瞬間的なひらめきと着想、そしてそれを実証するだけの思考力と検証力がある。その点、学者としては申し分ないけれど、でもこの助手には、どこか危険なところがあった。教授はそれを見抜いていた。シノザキ助手の意見や論文は、調子がどこか攻撃的であり、急進的な、是が非でも成果を出そうとするところがあった。それは研究対象に対する愛着というよりも支配意識を感じさせ、教授は彼を自分が抑えておかなくてはいけないと強く感じていた。
教授は鏡のことを考えた。あの鏡の意味を、誰にも知られてはならない。どうにかして、気づかれないように処分しなくては。それにしても、あのラスカ社長のお嬢さんには悪いことをした! お見舞いに行ってはみたが、気持ちはちっとも軽くならなかった……。
「教授、探索ルートについてですが……」
助手のひとことで、教授ははっとして顔を上げた。助手はいつの間にかデスクを離れて、目の前に立っていた。教授は、理由もなく背筋がぞっとした。それから気を取り直し、曖昧なことばをつぶやいて、彼の話に耳を傾けた……。