浪費家のための貯蓄方法 後日談:金の問題

 金の問題で、いつの時代もひとは頭を悩ませるものだ。セフィロスはあまり執着がない。どちらかというと、金は見たくない。ないほうが幸せだ。かわりに失うものもないのだから。
 ふたりはすこしは建設的な話をしようと、今後生活費をどう稼ぐのか、という問題について話しあうことにした。外は雪だった。毎日こうだ。おかげで、食うか寝るかやるか話すかしかない。クラウドは暇を持て余して、小屋の中をものすごく好きに改造してしまった。テーブルが折り畳み式になったし、ドアというドアの蝶番はおそろしくスムーズになった。回転戸棚ができた。大きな安楽椅子ができた……そしてクラウドはそこを気に入っていたので、いまもその上に陣取って話をしている。春になったら、どうするか。いつまでも、ここに住むのか? そんな話から、生活資金の話になったのだが、開始早々、セフィロスは絶句することになった。クラウドが、あんたのおっかけしてたあいだにためてた有り金全部がめてきた、と云ったからだ。
「……がめてきた」
 セフィロスは思わずそうくり返してしまった。
「そう。もともと誰の持ち物にするべきなのかって、難しいと思ってたんだけどさ、たぶん、みんな遠慮していらないって云うだろうなあと思って。で、おれ持ち逃げした。見る?」
 と云ってクラウドは椅子から飛び降りて、戸棚の中から薄汚いずた袋を引っぱりだしてきた。
「小金持ち、くらいだと思うけどね」
 と云ってそれをセフィロスに投げてよこした。思っていたより軽かった。札が多いのだろう。彼は、中を開けてみた。案の定、札がぎっしりつまっていた。
「……窃盗犯だという自覚はあるか?」
「ない。いいんだよ。おれが管理してたんだから、おれのだよ」
「おまえが管理?」
 セフィロスは心底驚いた。いくら数年間離れていたとはいえ、その間にクラウドに金を管理する能力が芽生えたなんて、ありえない。
「管理っていうか、なに? 預かってた? 引き出しに入れて、半分忘れてたんだけど。違うんだよ、おれいろいろあったあと人生に絶望してたからさあ、金なんかに頭回らなかったんだ。どうでもよかったっていうかね。かわいそうなクラウドくんだった、ほんとに。誰のせい?」
 クラウドがやってきて、セフィロスの手の中にあった袋を床に投げ捨てると、膝の上にのっかってきた。首に腕を回されて、皮肉げな顔がぐっと近づいた。
「ああ、わかった、全部おれのせいだ」
「そうだよ」
 唇どうしが軽く触れる。
「よくわかってるじゃないか」
 セフィロスは肩をすくめた。
「その金だってさ、あんたのせいだよ。おれなんか知らないけど、失踪する前にふと思い出したんだよね、その金のこと。で、どうせ死のうとしてるんだし、最後の最後におれの本性出してやれと思って、持ってきた。でもよく考えたら、予感があったかもしれない。金が必要になるよっていう、予感。だから、おれの窃盗もあんたのせいってことにならない?」
 セフィロスはクラウドが、メテオの一発をぶちかましているあいだに、どういうクラウドでいたのか知らない。彼にはいろいろな顔があるから、その気になれば特別いい子になることも、特別悪い子になることもできる。彼の態度で、相手に対する親愛度がなんとなく測れる。すこし、気になるような気もする。彼が他人に対してどこまで信頼を示していたのかということ。もちろん、自分に対してそうするように、丸出しのクラウドではないだろうけれども。
「もういい。好きなだけおれに罪をなすりつけてくれ」
 クラウドはけらけら笑った。
「でも、金っていえば、あんたの口座とか、おれの口座とか、どうなったんだろ? おれの貯金用あんたの口座は? あれ残ってるの? こういうことがあるからさあ、金はそのときそのとき使うべきなんだよ。惜しいことしたなあ」
「おれのはともかく、おまえの貯金用口座の中身に期待しているなら」
 セフィロスは冷たい視線を向けた。
「たいした結果は得られないな。天引きは十回にも満たなかった」
「ええ? そんなもんなの? おれ三十回くらい引かれた気がしてた。ストレスだったよ、毎月我慢しなくちゃいけないって。こんなことになるなら、やっぱり毎月有り金全部使えばよかったよ。だから、先のこと考えて我慢するのいやなんだ」
 いや、おまえの人生は特殊なケースだと思うが、とは、云わずにおいた。それに、いつも先のことを考えていて、こまめに倹約につとめるような計画性なんて、彼らしくない。ちっとも。結局、セフィロスはそういう無謀な、無鉄砲な、行き当たりばったりの、全財産をかけた賭事の中にあるような張りつめた情熱を持ったクラウドが好きなのだ。いっしょにいると大変だけれど。でもそのぶん、得るものも多いのだ。
「この金、あんたに預けるから」
 クラウドが首を傾けて足下の袋を眺めながら云った。
「おれすっかり通常モードのクラウドくんに戻っちゃったから、こんな金、いつの間にか全部なくしそうだもん。なんで金ってなくなるんだろう。なくならない金とか、誰か開発すればいいのに」
 さて、クラウドが当たり前のクラウドに戻ったからには、金をどこか適当なところに隠さなくてはなるまい。彼は生粋の浪費家で、先のことなど考えないやつだから。そういうのは、こちらにまかせる。結局、そういう状態に戻ったわけだ。セフィロスは、実用的な部分を適度に管理する。クラウドは、適度に管理される。ふたりにとってはたぶん、一番いい状態に。

 

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