逃亡と、こっぱみじん

 ザックスはふたりの男をかついで、迷路のようになっている地下一階を、驚異的な跳躍力を見せながらあっちへ飛び移り、こっちへ飛び移りした。途中で、その場に待機を命令していたホープニッツェル教授を拾い、迷路を抜けて、一階の円形広間まで引き返した。捜査官や調査チームの面々が、石碑の周りに固まっていて、突然男ふたりを担いだまま上がってきたザックスを驚いたように見つめた。ピルヒェさんもその場に合流していて、調査団の面々から、しきりになにか聞き取って書き留めていた。
「みなさん!」
 ザックスは叫んだ。
「ここ出ますよ! いますぐ! 急いで! ひとり残らず車に乗って、チョコボもみんな出発!」
 ザックスは叫びながら神殿の外へ躍り出た。
「ゲインシュタルトさん!」
 ザックスは神殿の裏から入口の前にチョコボ車を移動させていたゲインシュタルトさんに声を張り上げた。ゲインシュタルトさんは、チョコボ車から顔を出した。
「おお! 無事だったか!」
「おかげさまで。で、みんなでいっせいに避難したいんです。可及的速やかに! だから、全部のチョコボ車、うまいこと誘導してもらえませんか?」
 ゲインシュタルトさんはにやっと笑って、帽子を振り回しながら車から降りてきた。
「お安いご用さ」
 そうして素早く自分のチョコボ車のドアを開け放ち、大急ぎで教授たちのチョコボ車のところへ走っていって、チョコボたちに向かって手をたたき、「さあ、おまえさんたち、ちょっとおれの云うことをきいてくれよ!」と叫んで、馭者たちに指示を出し、あっという間に一列に並べてしまった。
「さあ、みんな早く乗った乗った」
 ゲインシュタルトさんは急かした。みんな大急ぎで車に乗りこんだ。そのさまはちょっと滑稽だったが、誰も笑い出すひとはいなかった。みんな車に乗りこむと、ゲインシュタルトさんもケルバの後ろの馭者台に飛び乗り、状況を把握するためにまだ地面に踏ん張っていたザックスに、
「あの坊主と御大はどうしたね?」
 と訊ねた。
「心配いりません」
 ザックスは安心させるようににっこり笑った。
「まだ中にいるんです。でも、大丈夫です。おれが保証する」
「そうかい?」
 ゲインシュタルトさんは不安そうだったが、ザックスが車に乗りこみながら「さあ、急いで急いで!」と急かしたので、ケルバの手綱を引っ張り、車を出した。ケルバは大きな、緊張した声で「クエ! クエクエ!」と短く鳴いた。チョコボたちがいっせいに緊張して、同じように「クエ! クエクエ!」の大合唱を返してきた。ゲインシュタルトさんと馭者の面々以外にはわからなかったが、これはチョコボ語で「行くよ行くよちょっと急ぐよ」という意味だった。
 ケルバとバンゴがぐいぐい加速して、風のように駈け出した。ほかのチョコボ車が同じようにして続いた。ザックスは車から身を乗り出してそれを眺めながら、「すっげえ!」と声を上げた。
「ゲインシュタルトさん、すごいっすね!」
 彼は興奮して云った。
「どんなもんだい」
 ゲインシュタルトさんは得意げに云った。
「人間もチョコボも、本気出したらなんだってやれるさ」
 神殿は、ぐいぐい遠ざかっていく。

 ザックスと別れてから、約二十分が過ぎた。セフィロスは相変わらず全身トカゲのしっぽな化け物を相手に、孤軍奮闘していた。といっても、なにをしたって死なないのはわかっていたので、化け物の注意がクラウドに向かないように、そして彼に例の気味の悪い色のブレスを浴びせることだけはないように、注意して行動するにとどめていた。
 クラウドは、云いつけをよく守っていた。柱の陰に隠れ、セフィロスと、それに怪物の動きを注意深く見守っている。その右手は、唯一の武器であるガス・ピストルをぎゅっと握りしめていた。それでなにができるなんてことは、この際問題ではなかった。そうしてクラウドは無意識に息を殺して、戦闘のさなかなのにどこか優雅に動きまわるセフィロスをじっと見ていた。セフィロスの動きは、よく訓練された舞手のように洗練されていた。敵の噛みつきを躱す動作は、舞台の上の踊り子がひらりと身体をひるがえしてステップを踏むのによく似ていた。彼がブレスをよけて飛び上がるときには、晴れて重力を超越したダンサーの、めいっぱいの軽やかな跳躍を見ているみたいだった。
 セフィロスは、相手がばかでかい、気味の悪い、不死身の怪物であるにもかかわらず、どこか微笑ましい余裕を保っていた。壁際で相手の首の下をすり抜けるときには、いまにも「おっと、失礼」と云い出しそうだった。たまたま大通りなんかでよそ見をしていて正面衝突しそうになった紳士が、あわてて横へ飛び退くような、そして相手に向かってユーモアたっぷりに肩をすくめてみせるような、あのしぐさを思わせた。それは彼の生来の茶目っ気であって、ザックスとはまた違った角度から、どんなときにも楽しむ要素と微笑ましい感情を忘れない、人間の真の強さだった。セフィロスは、セフィロスだった……こんなときでも。
 セフィロスが、本日何度目になるかわからない斬首をやってのけた。それから、振り返ってクラウドを呼んだ。彼は柱の陰から飛び出して、セフィロスのところへ走っていった。
「クラウド、いいか。これから、こいつを原子レベルに分解する」
 クラウドはよくわからなかったが、こくんとうなずいた。
「これを使う」
 セフィロスはコートのポケットから、セフィロスの目に似た緑色に輝くマテリアを取り出した。
「術の名前はまだ云わないでおく。発動してしまうからな。それで、これはおまえもぴんときただろうが、ちょっと威力の強いやつだ。おれは平気だが、おまえには相当な衝撃だと思われる。屈辱的だろうが、おれにしがみついていることを推奨する」
 化け物の身体が、びくびく痙攣しはじめた。地面に転がり落ちた首は、もう溶けはじめている。セフィロスは左手に刀を持ち、右腕でクラウドを自分の懐に固定し、手のひらにマテリアを乗せたまま、後退った。クラウドは心臓がどきどきしはじめた。どきどきして、セフィロスにほんとうにぎゅっとしがみついて、顔を覆ってしまおうかと思った。でも、それは彼のプライドに反することだったし、男の沽券に関わることだった。クラウドはぎゅっとセフィロスのコートを握りしめたが、化け物から目をそらさずにいた。ぶじゅぶじゅ音を立てながら、化け物の首が生えはじめている。
 セフィロスの手の中のマテリアが光り出した。その光がしだいに濃くなって、丸いマテリアの周りでうずを巻いた。クラウドは高周波の音を聞かされているときのような、いやな耳鳴りと頭痛を感じて顔をしかめた。磁場にいるときみたいに、身体の皮が身体に貼りつくような感覚を覚える。クラウドは唇を噛み締めてその気持ち悪さに耐えた。セフィロスがふいにふっと微笑した。
「難儀な体質だな」
 それはとても優しい声だった。セフィロスの右手のひらは、もう光の束でほとんど見えなかった。そこからものすごい熱を感じる。周囲のものが、みんな吸い寄せられてしまいそうな強力な磁場が、そこにできつつあった。化け物の頭はもうほとんど再生していて、首を大きくもたげ、叫び声をあげた。そうして、セフィロスめがけて一気に頭を振り下ろしてきた。
「アルテマ」
 それとセフィロスの声とは、ほとんど同時だった。一瞬で、目を開けていられないほどの閃光があたりに広がった。クラウドは反射的にぎゅっと目をつぶった。セフィロスの手のひらにあった磁場の塊が、そこを離れて、怪物の方へ動いていったのを感じた。クラウドの身体も、そっちに持っていかれそうだった。セフィロスの腕が強く支えていてくれなかったら、クラウドはぶっ飛ばされて、巻きこまれていただろう。耳をもいでしまいたくなるくらいのキインという音が響いた。そうして、床から突き上げてくるようなものすごい衝撃がきた。

 ザックスはチョコボ車のドアを開けて、後方へ目を向け、いまや手のひらほどの大きさに見えている神殿を注意深く見守っていた。
「ストップ! ゲインシュタルトさん、ストップだ!」
 ゲインシュタルトさんは大慌てでチョコボたちに手綱で止まれの指示を出した。ケルバとバンゴは突然のことに驚いて、少しよろめきながら、それでもしっかりと踏ん張って止まった。あやうく玉突き事故になるところだった。後ろを走っているチョコボたちも驚いたように「クエ!」という高い声を上げて、大慌てで先頭の車にならった。
「なにごとだい?」
 馭者台からザックスの方を振り向いたゲインシュタルトさんは、帽子が顔にずり落ちていた。他の車に乗っていたみんなも、次々に顔をのぞかせた。
「急停止はチョコボに……」
 ゲインシュタルトさんの抗議はでも、そこまでだった。突然、地響きがして、あたりが真っ白になり、みんな悲鳴を上げて目をつぶった。次に目を開けたときには、信じられない光景が広がっていた。神殿と、そのあたりの木々が、みんななくなっていた。
 しばらく、誰ひとり口を利かなかった。みんな凍りついた表情で、あるいは呆然と、いまのいままで神殿が確かにあったはずのあたりを見つめていた。
「……どういうこった」
 ようやくピルヒェさんが口を開いた。
「消えちゃったよ」
 あまりにも素朴なつぶやきだったが、誰も笑わなかった。みんな、おそるおそるというふうにザックスを見て、無言で説明を求めてきた。ザックスは頭を掻いた。
「んーと、手短に云うと、うちのボスが魔法を発動したんです」
 ザックスはチョコボ車から飛び降りて、神殿の方向へ数歩歩き、みんなの中央に出ていった。
「あの神殿に封印されてた化け物は、トカゲのしっぽみたいに、斬っても斬っても、再生しちゃったんです。だから、うちのボスがこっぱみじん作戦を思いつきました。それしか有効な手立てがなかったんです。で、実行しました。以上です」
 みんなはまたおそるおそるというふうに顔を見合わせた。チョコボたちまで神妙な顔つきで、お互いのパートナーを見やっていた。
「……そりゃなんてえか、すさまじいこったね」
 ゲインシュタルトさんが帽子をかぶりなおし、パイプから煙を吐き出した。
「すいません。大事な研究対象を粉々にしちゃって。でも、ほんと、それしかなかったんです。それから、シノザキ助手は、化け物にいの一番に攻撃されて、死んじゃいました。たぶんね」
 ホープニッツェル教授が額に手を当て、ため息をついた。カドバン准教授はロイド眼鏡を外して、ポケットから磨き布を取り出し、磨きはじめた。研究員たちは首を振ったり、呆然と神殿の方を見やったりした。ピルヒェさんはしかめっ面をした。そして捜査官たちは、なんとも云えない顔をしていた。こんな解決の仕方は、彼らも経験したことがなかった……もちろん、こんな奇っ怪な事件そのものも、取り扱ったことがなかったが。
 そしてザックスはというと、このどう反応していいかわからないでいるひとたちの反応が、自然な反応だと思った。こんなやり方は、そしてそれが可能である人間なんて、普通ではない。それは人知を超えた力だし、そういうものを見せつけられることに、人間は慣れていない。そういうものが存在することすら、昨今は忘れ去られかけていたというのに。ザックスはもう一度頭を掻いて、努めて陽気に口を開いた。
「ま、そんな感じなんで。あとで捜査局に報告しに伺います。大学のみなさんにも、ちゃんとお詫びします。とりあえずいまは、危険なんで全員街まで戻ってください。おれ、うちのボスと友だちを待ってから帰るんで。そうだ、ライオネルさん、泥棒ふたりに、いまのうち手錠かけておいたほうがいいですよ。そろそろ目覚ますんで」
 ザックスはそう云って、ゲインシュタルトさんに出発の指示を出してくれるように云った。
「いんや」
 ゲインシュタルトさんは怒ったような顔になった。
「ほかのチョコボ車はみんな帰ってくれて構わんが、おれはここに残るよ。おれにだって、プライドってもんがある。おれはおたくらに雇われてんだよ! 途中でほっぽり出して帰ったら、おれの立場ねえってもんだよ! おまけにかかあに怒鳴られちまう」
 ホープニッツェル教授が拍手をした。ほかのみんなも拍手をしたり、口笛を吹いたり、微笑んだりした。ゲインシュタルトさんはちょっと恥ずかしそうな顔をして、馭者台にしっかり座り直した。ザックスは、不覚にもちょっと感激してしまった。でもすぐに気を取り直して、ほかのチョコボ車の馭者たちにはどうか帰ってくれるよう頼んだ。みんな同意し、一台ずつその場を離れていった。森の中には、ゲインシュタルトさんとケルバとバンゴ、それにザックスが残された。
「乗りなよ、兄ちゃん」
 ゲインシュタルトさんが云った。
「ちょっとあの遺跡のあとに近づこうや。お迎えに行こうじゃねえか」
 ザックスは微笑んで、チョコボ車に乗った。ケルバは大喜びで高く鳴き、軽快に走りだした。

 あたりが恐ろしいほど静かになった。クラウドはおそるおそる目を開けてみた。セフィロスの腕の感触はまだ肩のあたりにあって、最初に目に入ったのはセフィロスの黒いコートだった。それから、こちらをのぞきこむセフィロスの顔。彼の銀髪。
「大丈夫か」
 セフィロスが優しく云った。クラウドはこくんとうなずき、わざとセフィロスの胸を押して、すこし離れた。
 クラウドは地中深く、大きくえぐれたクレーターの中にいた。巨大なクレーターだ。周囲は土がむき出しになっていて、木の根っ子が覗いているところもある。かろうじて足元の地面に、神殿のあとらしい、つやつやしたタイルがところどころ残っていた。あたりには、いろんなものがぱらぱら落下してきていた。神殿の壁の破片とか、土くれとかいったものが、高く高く舞い上げられて、落ちてきているのだった。
「消えちゃった」
 クラウドはぽかんとして、つぶやいた。セフィロスが後ろから「そうだな」と云った。
「あのぐじょびじょの化け物も消えたの?」
 クラウドはセフィロスを振り返った。
「たぶんな」
「原子に分解された?」
「そうだといいが」
 クラウドは口を開け、「すっごいなあ!」と云った。セフィロスは微笑した。
「あれがアルテマっていうやつなの? おれ、なにが起きたかぜんぜん見えなかったよ。目つぶちゃったんだ。情けないなあ!」
 彼は古代ギリシアのひとみたいに、胸をかきむしって嘆く真似をした。セフィロスは声を立てて笑ったが、すぐに表情を引き締めて、ちょっと怖い顔を作った。
「クラウド」
 クラウドはぴんときて、直立不動になった。
「おまえは、自分がなにをしたか、どれだけ迷惑をかけたかわかっているのか?」
「…………ごめんなさい」
 クラウドは絞りだすような声で謝った。
「いつもいつも謝って済むと思ったら大間違いだ。今度ばかりは、まず迷惑をかけた相手がまずかった。国立捜査局が、おまえのためにいったい何人の捜査員を、夜通し働かせたと思っている」
 クラウドは情けなくて、涙が出そうになった。
「あのひとのいいコランダー捜査官や、その友だちのピルヒェさんは、自分のせいだとまで思っている。ザックスだって、口には出さないが、胃に穴が空くほど心配したはずだ。おまえはどうして、そう自分勝手に行動するんだ。最低限の約束ごとも規律も守れないような頭の回らないやつは、おれは大嫌いだ。調子に乗るのもいいかげんにしろ。身の程をわきまえろ。それもわからないようなら、死んでやりなおせ」
 クラウドはありったけの後悔で、そしてくやしくさで、握りしめた拳がぶるぶる震えてきた。セフィロスのことばがいちいちぐさりと刺さった。わかっている。セフィロスと恋仲だって、ザックスと友だちだって、結局今回のような緊急事態には、その中には入れないんだということ。それと自分とは違うんだということ。セフィロスとザックスは、ソルジャーで、実力もあって、ツーカーで、ばりばり怪物にだって立ち向かっていけるし、捜査局と連携して仕事が出来るだけの判断力も、スキルもある。でも、クラウド・ストライフときたら! 十六歳の、兵役についているだけが取り柄の、ただのガキ。ちっぽけで、その場にいたって周りに迷惑をかけるくらいのことしかできない。そんな自分が嫌で、そんな自分を変えたくて、田舎から出てきたのに。結局、その差は広がるばっかりだ。ふたりのことを、肌身に感じるだけ。クラウドは打ちのめされていた。徹底的に。セフィロスがわざとそうしたのだ。でも、彼の云っていることは正しいし、その気持ちだってわかる。セフィロスだって、クラウドが心配なのだ。クラウドにむちゃなことをされたらまっ先に心臓が止まりそうになるのはセフィロスだ。そして彼は、全体の秩序を乱すことをなによりも嫌う。そのことによる損害があまりに大きいことを、知っているからだ。
 クラウドは泣かないように、一滴だって涙がこぼれてこないように、唇を噛んで、息を止めた。セフィロスの腕なんか待っていない。彼の手がこちらへ伸びてくることなんか、そんな優しさなんか、期待しているわけじゃない。それはずるいことだ。これは自分の問題なのだから。そこにセフィロスを、持ちこむべきじゃない。ひとりになりたかった。いますぐに、どこかの部屋の隅っこで、ひとりに。でもこれも、やってはいけないわがままなのだ。ふたりともいますべきは、ここから出て、みんなのところへ戻ることだ。だから、クラウドはいますぐ反省した、でも通常運転のクラウドに、戻る必要があった。目を不自然にしばたくのはやめて。唇に力をこめたり、手のひらを痛いほど握りしめたりなんかしないで。
 ああでも、セフィロスもやっぱり優しかった。自分がすべきことを、彼もまた最後までちゃんと遂行できなかった。彼はクラウドを抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。髪の毛に鼻先をうずめて、クラウドの背中を何度も撫でた。クラウドはもう我慢できなかった。これは半分セフィロスのせいだった。放っておいてくれたら、彼が優しさを出さずに、ちゃんと毅然としてくれていたら、クラウドだってこんなに子どもみたいに泣かなくてよかったのに。クラウドはものすごい力で、セフィロスをぎゅうっと抱きしめた。涙がぼろぼろこぼれた。安堵と、後悔と、羞恥と、そのほかいろいろのものがごたまぜになった涙。セフィロスは無言で、クラウドがしっかり落ち着いて、泣き止むまで、抱きしめていてくれた。なんにも云わずに。
「さあ、もういい。わかったな」
 しばらくして、セフィロスはひどく優しくそう云った。声を発することでなにかを壊してしまうかもしれないと、おそれているみたいに。クラウドはこくこくうなずいて、大急ぎで自分の目と、頬を拭った。そうして、セフィロスを見た……あろうことかセフィロスは、盛大に吹き出した。
「ひどい顔だ」
 クラウドは自分の顔が見られなかった。だからこれは、はなはだ不公平なことだと思った。彼はセフィロスを蹴飛ばした。でもセフィロスはひらりと避けてしまった。そうして、大笑いしながら歩き出した。
「記録的なひどさだ。おまえが自分の顔を見られないのが残念だ」
「なんだよ!」
 クラウドは声を上げて、セフィロスに背後から飛びかかった。
 そのとき、はるか頭上からのんきな声がした。
「ハロー、おふたりさん、だいじょぶ? 無事? 生きてる? ザックスちゃんよー!」
 小さく見えるザックスが、ぶんぶん手を振ってこちらを見下ろしていた。その後ろから、ケルバが「クエエ!」と云いながら、羽をばさばさやっているのが見えた。

 

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