セフィロス氏のお誕生日会

セフィロス氏と植物園のバラ展
 
「あのさあ、あんた、悪いんだけど散歩してきて。おれ、家の中占領したいから。じゃあね、バイバイ」
 セフィロスはそのとき、ソファで先日クラウドがこしらえた盛大な床の凹みについて考えていた。なにをするつもりなのか、直径で一メートルはありそうなばかでかい木板を持ちこんできたクラウドは、その角をちょっと床に落っことして、廊下に幅三センチほどの窪地をこしらえてしまった。クラウドがおかしなことをするのはいまにはじまったことじゃない。部屋中にペンキの匂いがたちこめていようが、工具類が床に散乱していようが、風呂場のドアが取り外されていようが、それは別段おどろくべきことではない。ただ、ほんの少しあたりに気を配って欲しいだけだ……セフィロスは考えごとをしていたので、おしまいのバイバイのあたりしか聞いていなかった。それで「ん?」と訊き返したのだが、クラウドはものすごく意地の悪い顔をしていて、セフィロスをぐいぐい押して玄関から外へ押し出してしまった。
「はい、財布。はい、虫眼鏡。はい、携帯。帽子かぶる? フェルト地のやつでいい? 植物園でさあ、今日から世界のバラ展ってのやるらしいよ。行ってみれば? 電話するから。じゃあね」
 ドアがバタンと閉まった。セフィロスは実際このときまだ、床の凹みに精神の六割ほどがとらわれていたため、またもやクラウドの云ったことを半分ほど聞き逃した。植物園でバラ展、というところだけはかろうじて聞いていたけれど……セフィロスは元来、のんびり型に属する。ぴりぴりした思考が脳内を高速で駆け巡るときの興奮を知らぬではないけれど、彼はそういったものよりも、花の蕾が開くのを見守ったり、アリの仕事を観察したり、雲の行方を追うほうが好きだ。そうして自分の中に湧いてくるものをしっかりと受け止めて、ちょっと微笑むのが好きだ。彼の時間は、そういうふうに流れるようにできている。そこへどっちかというと目移りの激しい、ブンブン飛び回る蜂みたいなクラウドの頭がぶつかってくると、日常がとんでもなく面白いものになる。それは認める。さて、おれはどうすればいいのだったか……セフィロスはちょっと考え、とりあえずそのバラ展なるものへ行くという目標を定め、帽子をかぶり、財布と携帯をしまって、虫眼鏡を一度覗いてからそれも大事にポケットに入れた。虫眼鏡は大事だ。バラを見るならぜったいに必要だ。虫眼鏡越しに覗くことによって、バラの花弁の微妙な巻き具合や、色彩の変化をより仔細に観察することができる。
 セフィロスは都会のマンションを出て、のんびり歩き出した。羽織ったコートの襟を立て、帽子を目深にかぶって、ときどき空を見上げ、その青さと綿菓子みたいな雲の、変な形に敬意を払う。ミッドガル市内に植物園はいくつもあるが、ふたりのあいだで単にそう云うときには、もっとも規模の大きな、家から歩いて三十分ほどのところにある植物園を指す。温室で育てられている南国の珍しいものや、食虫植物、世界一大きな花、巨大なサボテン、などが来園者を迎える。子ども連れやカップルがあたりをうろつき、老人たちはより学術的な探究心でもって植物を眺め回し、写生に精を出すひともちらほらいる。
 セフィロスはぶらぶらと植物園を見て回った。平日の昼下がりに、ひとけはまばらだった。池の中の蓮を長いこと見つめ、しゃっちょこばって敬礼する警官みたいな大きなサボテンに挨拶する。とげとげのそいつは、いかにもいかめしい面構えで応じた(ように見えた)。
 バラ展は、奥まったところにあるプレハブの展示室で行われていた。中へ足を踏み入れた途端、強い香りが鼻に飛びこんでくる。セフィロスは目眩すら起こしそうなその芳香にしばし深呼吸して鼻を慣らし、ちょっと微笑んで、バラを見て回りにかかった。非常に珍しい、青いバラがまず堂々と姿をあらわした。サファイアのようなつややかな青の花びらを、ひとがまばらなのをいいことにセフィロスは虫眼鏡で見た。とげとげも見た。黒や黄や橙や赤、紅、白、それらの美しさにセフィロスは時間を忘れて見入った。いったい、なぜこんな美しいものが黙っていても勝手に生えてくるのだろう。彼は不思議でならない。人間もそうだが、なにかのものが、一定の形に間違えずになることができるというのはすごいことだ。それが美しさを兼ね備えているときには、さらに驚異的に思われてくる。そんなときは、宇宙の神秘とそれを統制するなにものかの意志を考えずにいられない。たとえばクラウドがこの世にいることだって、これはずいぶんと不思議なことだ。毎日いっしょにいると、当たり前のように思ってしまいがちだけれど。彼のあの金髪、あの美しい目、唇、かわいらしい鼻、しなやかな身体、どれをとっても、あのような美しい形で存在しているということは、ほとんど不可能に近いほど奇跡的なことではなかろうか。
 セフィロスは非常に考え深い顔つきになって、長いことバラ展の建物の中にいた。

セフィロス氏と偶然の出会い
 
 バラ展をあとにするころには、もうすでに日が傾きかけていた。セフィロスはふたたび植物園をぶらついた。彼のあとには、当然その身長に従って、非常に長い影がくっついて歩いていた。
 いろいろの花を集めた花壇にさしかかったとき、彼はそこによく知った人物の姿を見つけて立ち止まった。黒髪をつんつくにしたザックスが、横にかわいらしい女性を従えて花壇を見回っていた。彼女だ。クラウドが、ザックスに似合わない愛らしいひと、とちょっとぽうっとした顔で云っていた、彼女だ。向こうがこちらに気づいた。たくましい腕がぶんぶん振られる。セフィロスはザックスのところに歩いていった。
「ハアイ、ボス。植物園で会うなんて変な感じね。おれに似合わないなんて云わないでくれる? おれが来たかったってわけじゃないから。彼女がね、お花が見たいって……いてえ、わかったよわかったよわかりました、おれも興味がありました、仕方なくつきあってるわけじゃありません、ほんとに、誓って。で? ボスはひとり? 閣下は? あの虫食うへんな植物のとこにでもいんの? 家? ふうん、なんかしんないけど追い出された? まあ、閣下ってそういうやつだよな。ご愁傷さま」
 よくしゃべるザックスに、セフィロスはまったくだと云い、なおしばらく世間話をしたあと、彼女に軽く会釈して、その場をあとにした。セフィロスは後ろを振り返ったりはしなかったので、ザックスがどこかに電話をかけはじめたことには気がつかなかった。

セフィロス氏と携帯電話の着信
 
 ザックスから離れてしばらくすると、セフィロスの電話が震えだした。クラウドがいたずらして、着信画面はものすごく変な顔のクラウドの写真なのだ。セフィロスはそれを見るたびに、いつも軽く吹き出さずにいられない。
「なんだ。もう戻ってもいいのか? 許可する? そうか。バラか? ちゃんと見た。虫眼鏡を使った。心が洗われるようだった……なに? 急げ? 追い出しておいて今度は急いで帰れというのはどういう……ああ、わかった、わかった、なにも訊かない。わかったからそう唸るな。サイレンじゃないんだ。マッチ? このあいだおまえがそれで積み木をやっていたので元に戻しておいた……キッチンの棚の……そうだ、そのものすごい茶色のやつだ……そのものすごい茶色の、左から二番目の棚の中に……あった? いまのすごい音はなんだ? 頼むからこれ以上床に傷をつけないでくれ。おまえはもうすこし優しく……切られた」
 注意しようとしたところで切られた電話を見つめ、セフィロスは小さくため息をついた。クラウドは、どうしてああなのだろう? 自分に都合の悪いことは、とんと無視できるように神経回路が出来上がっている。挙句の果てに「おれはかわいいからいいんだ」と来る。ほんとうだからなお始末が悪い。泣きながらもうおまえとはやっていけないと別れを告げたら、少しは心を入れ替えてくれるだろうか、いや無理だろうな、などと思いながら、セフィロスは云いつけどおり大股で家路を急いだ。

セフィロス氏とお誕生日会
 
 玄関へ入ったとたん、視界が暗くなった。頭に布を被せられたのだ。
「……これはいったいなんの真似だ?」
 セフィロスはちょっと怖い声を出した。クラウドがにやにや笑っているのが気配でわかる。
「まあまあ、すぐにわかるよ。おれがお手手引いてあげるからさ、あんたの足腰が立たなくなったときの介護の練習だと思えばいいよ。だって、あんたのほうが年寄りだし」
 セフィロスはそんなことをされないでも自分の家の中くらい気配で歩けるのだけれど、せっかくクラウドが嬉々として手を握ってきたので、おとなしくそれに従った。彼がなにかとんでもない企みをしているのだということはわかっていた。セフィロスに必要なのは、クラウドが望むとおりに驚いてやることだ。そうすれば、クラウドはとても喜ぶ。たとえ当惑するようなもの、あるいは怒髪天をつきそうになるものを見てしまっても、そういう素振りを見せてはいけない。素直に彼を褒め、ねぎらい、驚いた、と云わなければならないのだ……セフィロスは歩きながら、クラウドをがっかりさせないように頭の中で簡易式のイメージトレーニングまで行った。
「じゃあ布取るから、ゆっくり目開けるんだよ。いい? ゆっくり」
 セフィロスはうなずいた。クラウドが布を取った。
「……………………驚いた」
 セフィロスのそれはちっともイメージトレーニング通りではなかった。ほんとうに驚いたからだ。彼は目をしばたき、真正面の壁に掲げられたばかでかい木板に書かれた文字を読んだ。
「セフィロスのおたんじょうび ひとつおとなになったきねんのかい (しゅさい クラウドくん)」
 板は先日クラウドが家に運びこんできて、床に窪地をこしらえたやつだった。板のまわりは、わっかにした紙をたくさんつなげた飾りや、ティッシュペーパーで作ったらしい造花、なぜか手裏剣の形をした金色の折り紙などで飾られている。セフィロスはあんまり複雑な感情にみまわれたせいで、ことばを失い、その場に立ち尽くしていた。クラウドがしびれを切らして肘でわき腹をつついてくるまで、それは続いた。
「あのさ。感動してるとこ悪いんだけど、プレートだけじゃなしにほかも見ろよ。もっとなんか云うことないの」
 それでセフィロスはようよう意識を取り戻して、眼球を木板から引きはがし、自分の脇に立っているクラウドを見た。彼はきらきらする緑と銀色の紙を巻いた三角帽子をかぶって、首から笛をぶら下げていた。セフィロスは実にゆっくりと振り返って、あたりを見回した。
 ダイニングルームはいまや、見慣れた光景から遠ざかり、静かな食事の間からお誕生日会用の騒々しい空間へと変貌を遂げていた。赤や黄色やオレンジの風船が、辞書を重石代わりにして、ゆらゆら揺れていた。クラウドが持っているありとあらゆるぬいぐるみが動員され、照明器具からひも伝いに猿やチョコボやウサギがぶら下がり、そこここで造花の束を持っていたり、首輪をかけてかしこまっていたり、背中が平らになったカバの置物などは、背中にものすごく太くて大きいキャンドルを乗せていた。セフィロスが家のあちこちで育てている鉢植えがテーブルの周りにみんな集合していて、よく生い茂ったゴムやパキラ、くねっとしたガジュマルなんかが並んでいるのを見ると、ちょっとした密林にいるみたいな気持ちにさせられる。
 テーブルの上はというと、おそらく未亡人が作ってくれたに違いないふたりぶんの料理が真っ白なレースのテーブルクロスの上でまだ湯気を立てており、あちこちにキャンドルが灯され、花びらが置かれ、真ん中には特大の花束が置いてあった。クラウドのぬいぐるみはここでも活躍しており、小さなクマやブタやトンベリが、花を一輪持ったりきらきら光るスーパーボールを持ったり、リボンを巻かれて置かれたりしている。クラウドが大事にしているミニカーがテーブルの両端に一列に並んでいる。その前にはなぜか1/35神羅兵コレクションが並んでいて、めいめいにいろいろなポーズを決めている……セフィロスは頭がくらくらした。胸が熱くなって、ことばがのどにつっかえ、彼は結局なにも云えなくて、もう一度クラウドを見た。彼はすごくひとをばかにしたような顔をした。
「あーあー、わかったよ、もういいよ。なんにも云わなくていいよ。クラウドくんがすごいとか、天才的な企画力と行動力を持ってるとか、愛情にあふれるいい子だとかさ、そんなこといまにはじまったことじゃないしね」
 クラウドは彼を押して、席に着かせた(なんと椅子を引いて座らせてくれた!)。それからセフィロスの首にバースデーケーキが刺繍されたナプキンを結びつけ、頭に三角帽子をかぶせ、台所に消えた。と思ったら、大きな四角いケーキをうやうやしく運んできて、花束の横に置いた。ケーキの上にはカリグラフィを習ったひとが書いたみたいな書体で、ハッピーバースデーと、セフィロスの名前が書いてあった。ケーキの外周に沿って、しましまのろうそくが並べられている。クラウドはそれの一本一本にマッチで火をつけ、部屋の明かりを消した。でも、たくさんのキャンドルがともっていたので、部屋の中は存外明るかった。
 クラウドがおもちゃのマイクを持ち出して、口元にあてがった。
「えへん(と彼はお偉方みたいな咳払いをした)。ではではこれより、クラウドくん主催、セフィロスさんのお誕生日会を開催します。このお誕生日会は、料理をのぞいてすべてクラウドくんのアイディアによる手作りです。まずはクラウドくんに拍手」
 クラウドがさかんに拍手するのにあわせて、セフィロスもぱちぱち手をたたいた。
「では会をはじめさせていただきます。ろうそく消しの儀式をとりおこないます」
 クラウドが顎をしゃくるのにあわせて、セフィロスはおそるおそるろうそくに向かってふうっとやった。
「だめだよ、もっと勢いよくばあっと消さないとさあ。景気づけなんだから」
 セフィロスはほんとのとこ、そういうのがちょっと苦手だった……彼は力が有り余っているので、ごく人間的な範囲に収める加減が難しい。でも彼はよく注意して、精一杯勢いよくろうそくを吹き消した。拍手が起こり、突如としてばかでかい音量のハッピーバースデー(の合唱)が流れた。それからクラッカーがばんばん破裂し、ピイーっと笛が吹き鳴らされ、天井でくす玉が破裂した。セフィロスはくす玉に入っていた紙吹雪をこれでもかとばかりにあびて、銀髪のてっぺんがありとあらゆる色になった。
 クラウドがマイクを放り投げ、自分の席に着いた。セフィロスは、いったい彼になにをどう云ったらいいのかわからなかった。よくあることだ。それで、小さく微笑みかけた。クラウドは生意気に鼻を鳴らした。
「あんた、今日自分の誕生日だって覚えてた?」
「……いいや、忘れていた」
「だと思った」
 クラウドが電気をつけなかったので、彼の顔や金髪は、ろうそくの明かりでゆらゆらと幻想的に照らされたり、ほの暗くなったりした。セフィロスの目の前のケーキや花束も、同じように揺れ動いた。ゆったり食事を楽しみながら、セフィロスは胸が押しつぶされそうなくらい幸せだと思った。幸せもまた、あんまり過ぎると苦しいものなのだと、料理をばくばく食べているクラウドを見ながら彼は考えた。クラウドは、木板をどこから持ってきたのだろう? 大方スラムのどこかから盗み出してきたに違いない。主役をパーティー会場から追い出して数時間、ひたすら会場の設営に尽力していたのだろうか。その間、未亡人がやってきて料理をし、ケーキを焼き……午後いっぱいかかったわけだ。保守的でおとなしい部類に入る未亡人は、いったいこのバカ騒ぎをどう見ていたのだろう? でも彼女は案外茶目っ気のあるひとだから、そういうのを見ながら、男の子ってものは! とか思っていたかもしれない。木板に文字を書くとき、クラウドは耳に空色の鉛筆をさして、うーん、とか眉をしかめ、画家のように片目を細めてバランスを考えながら書いただろうか? そういうのを考えると笑ってしまう。
「ところで、バラ展どうだったの」
 クラウドがふいに訊ねてきた。セフィロスは、たいへん美しかったし、すばらしかったと云った。
「途中でザックスとその彼女に会った」
「ふーん」
 クラウドの返事があまりにそっけないので、セフィロスは、ああこれもクラウドの企みだったのだな、と思った。たぶん、自分がちゃんとバラ展を見たり、植物園をぶらついているか監視する役目を引き受けていたのだ。もちろん、植物好きなザックスの彼女が植物園に行きたがったということも、あるだろうけれど。
 食事もだいぶはかどってから、クラウドは花束の中からメッセージカードを取り出した。
「おれのじゃないよ。そこまでしない。これ、未亡人からなんだ。花束ごと、あんたにってさ」
 セフィロスは感激してカードを読んだ……お誕生日おめでとう。あなたのお世話ができてほんとにうれしいわ。なぜって、あなたはとてもいい雇い主だし、思慮深いし、あれこれ云わないものね。こんな日には、自分をこの世に産み落とすなんて、神さまもまんざら悪いことはしなかったのだ、とお思いにならない?
 セフィロスはそのとおりだと思った。カードから目を上げると、向かいの席にいたクラウドがどこかにいなくなっていた。少しして、彼はまだ小振りな、観葉植物の鉢を持って戻ってきた。
「幸福の木か」
「ピンポン。未亡人と相談したんだ。今年は植物ぜめにしようって。未亡人が花を選んだから、おれは別のを選ばないといけないだろ。それに、おれ花なんて柄じゃないしね。おれの計画は、あんたの部屋を植物だらけにして、そこでターザンの真似してあああーって云いながら転がり回るってやつなんだ。密林みたくなったら、オウムを飼うよ。コバタンとか、かわいいの」
 セフィロスは、それはとてもよい計画だと思うと述べた。そうして、渡された幸福の木をうっとりと見つめた。いまはまだ成長途中だが、日当たりのいいところに置いて、しっかり大きくしてやろう。挿し木にして増やすのもいい。そうしたら、クラウドの求めるターザン計画にもぴったりだ……もっとも、マンションの一室のどこでターザンごっこをするのか、疑問だけれど。
 バースデーケーキは、クラウドがほとんど食べてしまった。でもセフィロスは別にそれでよかった。パーティーもお開きになって、クラウドが眠くなりだしたころ、ザックスから電話がかかってきた。
「ハアイ、ボス。誕生日おめでとう。みんなからの伝言伝えるよ」
 ザックスは彼の部下ひとりひとりの名前と、メッセージを読み上げた。すごく長いのから短いのまでいろいろあって、セフィロスはその間笑ったり胸を熱くさせたり、忙しかった。
「てなわけ。お誕生日会楽しんだ?」
「ああ、おかげさまで」
 セフィロスは微笑を浮かべた。
「そりゃよかった。あのね、明日荷物が届くから。今日にしようと思ったけど、おじゃまかななんて思ってさ。おれってやっさしいわあ」
「おまえも植物シリーズ連盟に入っているのか?」
「え? なにそれ。新手の募金詐欺かなんか?」
 セフィロスは忘れてくれと云った。ザックスはおやすみを云って、電話を切った。それからセフィロスはクラウドが眠りかけているソファに行って、彼を優しく揺すり起こした。
「クラウド、風呂に入れ」
 クラウドはうう、とうなって、セフィロスにしがみついて本格的に寝る体制に入った。どうにもしようがないので、セフィロスはクラウドを抱きかかえ、寝室へ運んでやった。クラウドの頭にはまだ三角帽子が乗っていた。彼はそれを丁寧に外して、胸にぶら下がっていた笛も取り外し……薄暗い部屋の中で、クラウドのまぶたにちょこんと口づけた。

 

当サイトも一歳です、おめでとう。
誕生日がわからないけど、セフィロスさんもおめでとう。
いつもありがとうございます。

 

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