ベッドの上で転がり回ったあとに、クラウドが動きたくないとか眠いとかの理由で、ふたり一緒に風呂に入ることはままある。クラウドは最後の瞬間を迎え、それをやりすごしたあと、実に満ち足りた、幸福そうな顔になる。瞑想中の仏陀のように半眼で、枕に金髪をまき散らして頬をうずめ、小さな笑みを浮べているみたいに唇を薄く持ち上げて、まどろみのような余韻を感じているような、そんな様子になる。セフィロスもつられてそのまま一緒に眠ってやりたいと思うことがある。彼のまどろみを邪魔することなく、自分も同じ幸福の波の中に入りこんでゆく。もちろん、そんなわけにいかないことのほうが多いから、なんとなく申し訳ないような気持ちになりながら、クラウドを起こし、あるいは抱き上げ、風呂場へ向かう。クラウドはいつもたいてい甘ったれだが、行為のあとは飛び抜けて甘ったれである。子どもがむずかるみたいな声を出して、セフィロスの首にしがみついて離れない。眠いのもあるだろう。行為のあとの心地よい解放感は、どんな睡眠薬も及ばない安眠を保証してくれる。
セフィロスはだからだいたいは、クラウドを抱きかかえたまま彼の身体を丁寧に洗ってやり、たっぷりのお湯で洗い流して、一緒に浴槽に沈む。まれにクラウドがすごく元気で、浴槽の中でおもちゃを振り回して暴れることもある。そういうときは、セフィロスは好きにさせておく。騒がしい彼を楽しむ。でもクラウドが眠くて、心地よくて、うっとりしているときは、そういう彼とふたりで静かな時間を楽しむ。
広い浴槽に寝そべって、クラウドを自分の上に乗せるようにして風呂へ入れてやる。ときどき、肩のあたりが冷えないようにお湯をかける。クラウドはセフィロスの肩に頭を乗せ、首筋に鼻を押しつけるようにしてじっとしている。セフィロスは彼の背中を、なんとはなしに撫でる。細やかな水音が、彼の手の動きに合わせて生まれる。クラウドはちょっと鼻を鳴らす。
この日のクラウドは、寝室の気分をずっと引きずっているようだった。首筋に吸いつくようにキスをしてきて、セフィロスの右手の指をまとめて握って、風呂の中で振った。セフィロスは囁きかけるみたいに「ん?」と云った。クラウドは「んーん」と云った。セフィロスは笑って、彼のすっかりふにゃっとしてしまった髪に口づけた。クラウドはセフィロスの肩に乗せていた頭を起こして、正面から向き合うと、目を閉じて、顎にキスしてきた。ちょこん、と小さく。そうしてゆっくり目を開けて、微笑を浮かべて見上げてきた。セフィロスは彼の耳を指先でくすぐった。クラウドは猫みたいに、耳をぴくぴく動かした……彼は器用で、耳だけを動かすことができる。寄り目も得意だし、足の指を一本ずつ動かすことだってできる。全身いたるところに神経が張り巡らされたクラウドは、だから、あちこちがとても敏感だった。全身がセンサー。セフィロスは彼のそのセンサーのスイッチを、入れたり切ったりすることもできる。その気になれば。
クラウドの額、眉間、まぶた、目尻、愛らしい鼻先、頬骨、上唇、下唇、顎。唇で、その造形を確かめるように、まるでそれが作りたての粘土細工でもあるみたいに、そっと触れる。頬に貼りついた濡れた金髪を唇と歯で脇へ除けるとき、彼の絹のような恥毛を、それが体液で濡れ光るさまを、ふいに想った。セフィロスはその部分の感触を、なんとはなしに確かめてみたいという思いに駆られた。けれどもいまここで手を伸ばしてしまったら、それはすなわちそういう要求を彼に伝えてしまわないだろうか。別に伝わったところで悪くはないが、せっかくもうおしまいというので身体じゅうきれいにしてやったのだから、これからそれを覆すようなことを連想させるのは、できれば避けたかった。それで、背中をさすり、背中を通りすぎて尻へ至り、そのちょっとした丸みを手のひらで感じ、脇腹の感じや肩甲骨、皮膚の下に眠っているいくつもの骨や組織のことを考えながら、ゆっくりと手を滑らせた。クラウドの身体の中を、なんとはなしに想像してみることがある。こんなふうに、彼の身体を撫でながら。大食らいの主人を持って、消化器官は日夜懸命に働いているに違いないし、血はさぞ赤いことだろうし、筋肉はきっと美しい色をしているだろう。心臓は鼓動し、肺は空気を取り入れて押し出し、彼の身体は絶えず循環している……けなげな美しい生命。それがここで、息をしているということ。確かに目の前にいるということ。肉体とは、それを通じて得られる感覚とは、こんなにもいとおしさに満ちている。
……風呂から上がったあとで、セフィロスはクラウドをベッドに横たえ、胸に耳を押し当てて、その心臓の鼓動を飽きずに聞いた。規則的な、几帳面な鼓動。その動きに乗って、身体中を流れる温かな血潮。彼はクラウドの心臓の真上にキスし、あちこちにキスした。クラウドはとっくに眠っていたけれど、セフィロスは気にしなかった。クラウドの母親が息子に「今日もかわいくていい子だった」と云うように、彼は一日の終わりに、クラウドに今日も自分が彼を慈しんでいたことを、その存在が小さな穏やかな波のように自分を満たしていたことを、囁くのである。ことばではなく、肉体を通して。