報告会

「というわけで、教授首謀による犯行と思われていたラスカ嬢の鏡盗難事件ですが、そのあとに、彼の研究助手である、ウータイ出身のジェラール・シノザキ氏がさらなる盗難を依頼していたことが判明しました。彼のひととなりについて、そしてこの事実がなにを意味するかについては、まだ詳しくはわかっておりません。以上で、同僚からの報告を終わります」
 というセフィロスのひとことで、応接室は静まりかえった。捜査局の応接室には、コランダーおよびライオネル両捜査官のほかに、数名の男たちが、ドアや窓のところに立ったり、コーヒーカップを持ってセフィロスを見つめたりしていた。
「……もうしょっぴきましょう!」
 きまじめなくそまじめが沈黙を破った。
「それだけ証言があれば、少なくとも拘束しておくことくらいできますよ。第二の犯行ってやつも防げるし」
「しかしなあ」
 コランダー捜査官は考え深い顔で顎をさすった。
「その犯罪組織の連中の証言が事実だとしたって……たぶん事実だろうが……のちのちどうなるかなんて、わかったもんじゃない。法廷で、ミッドガルからやってきたうなるほどの金で雇われた弁護士なんかと勝負してみろ、ひどいもんだ。おれは昔こっぴどくやられたことがあるんだが……それとも、彼らとあなたがたとの関係は、血の通ったもので、容易には裏切れないたぐいのものですか?」
 セフィロスは微笑し、場合によります、と云った。
「大玉が直接ねじこんできたとかで、われわれよりもう一段階上のレベルで話し合いが持たれる場合もありますし……そうなれば、われわれはその決定に従うよりほかありません。しょせん組織の中の人間ですから」
 ひとのいい捜査官は、肩をすくめることで控えめに気持ちを表した。
「ほらな。でもまあ、できることはやらなくちゃならんよ。仕事だからな。やるからには、とことん、ぐうの音も出ないくらい完璧な証拠をつきつけてみせなくちゃ。必要なのはこれだ、誰の目にも……耳でもいいが……明らかな証拠。非の打ち所のない確たるものだよ。いまその教授やら助手やらをしょっぴくのは簡単だが、そうしたらおそらくふたり組の男たちは取り逃がすだろうし、聞けることも聞けずに終わる可能性が高い。鏡は戻ってくるか知れないが……だいたい、その鏡はいったいなぜそんなに重要なんだ? 教授はなにを隠してる? その鏡になにかものすごい秘密があるに違いない。事件ってのは、ただ犯人を捕まえるだけじゃだめなんだ。動機や、背景を理解しないと」
 コランダー捜査官は立ち上がって、部屋の中をぐるぐる歩き回った。相棒のライオネル捜査官はソファの上で居心地悪そうに身じろいだ。自分には結果を出そうとせっかちになる傾向があることは、自覚があったのだ。
「あなたがたなら、どうします?」
 捜査官は立ち止まって、にやつきながらセフィロスに訊ねた。セフィロスは首を傾けて、楽しそうに笑った。
「われわれなら、泳がせます。ほぼ間違いなく捕獲できる自信があるので……相手が透明人間だの瞬間移動ができるだのややこしくない、ごく普通の人間で、逃走手段に軍用戦闘機でも持ち出さない限りは」
「そりゃ、そんなことはめったにないでしょう」
 コランダー捜査官は笑って、相棒をちらっと見、それから相変わらず大人の話に割りこむようなことはしないが耳をダンボにしている金髪の少年を見た。
「……あなたの部下が使用した、アイシック・リポート紙の記事を書いたのは、わたしの友人でしてね」
 コランダー捜査官はあごをさすりさすり考え深い顔でつぶやいた。
「この事件があったあとすぐに、本人に確認をとったんだが……確かフラットへ出向いて、教授に直接インタビューをしたと云ってましたな……」
 コランダー捜査官は、部屋にいるほかの部下たちを眺め回した。
「確認事項を整理しよう。まず、そもそも、祖母の遺品という害のないはずの鏡はなぜそんなにつけ狙われるのか。実行犯の男たちは、いまどこにいるのか。教授とその助手の行動を監視する必要があるな。実行犯のふたりを探すのは、フリッツとカーニングに任せる。バロッサは、図書館頭のクレストじいさんのところへ行って、鏡に関する資料がないかあたってみてくれ。あっちこっちの大学に協力を依頼してもいい」
「それについては」
 セフィロスが口を挟んだ。
「神羅カンパニー資料室が、役に立つかも知れません。うちの科学部門は、古代種に関する資料を集めていますから。同僚にちょっと潜りこんでみてくれるように頼みます」
 コランダー捜査官はうなずいた。
「よし、バロッサはザックス・フェア君と協力して調べてくれ。あとで彼の電話番号を教えてもらえますか?」
「ソルジャーさんといっしょに捜査だなんて、こりゃあわくわくしますね」
 髭面で、浅黒い肌をしたバロッサ捜査官はにやついて、手をこすりあわせた。
「できれば誰か教授の調査のことがわかる人間を、われわれの側に引っ張りこんだ方がいいのでは?」
 ライオネル捜査官が云った。彼のボスは「そりゃ確かにそうだ」と云った。
「鏡の件についてあちこちの大学に問い合わせたとき、ミッドガル大学ではカドバン准教授というひとが対応してくれたんですが、そのひと、ホープニッツェル教授の研究グループのひとりなんです。ためしにそのひとにあたってみてはどうでしょう?」
 バロッサ捜査官が云った。コランダー捜査官はその案を採択した。
「さて、ここからはわたしの個人的な考えなんだがね」
 コランダー捜査官は顎をさすりさすり云った。
「教授は二日後に、街の北西にある古代種の遺跡を調査しに出かける。この間教授たちの行動を把握・監視するには、ちょっとした工夫が必要だ。そこでだ」
 捜査官はにやりと笑った。
「取材を申しこんでみるというのはどうだろうかな。もしかすると、いや、たぶん、断られるに違いないだろうが、そうだとしても、仕事熱心な記者が無謀を承知で現場へ乗りこんでくのは、よくあることさ……われわれもそれで相当苦々しい思いをしてるからね。そしてこれはさらに個人的な思いつきなんだが……」
 捜査官はクラウドの目の前にやってきて、ウィンクした。
「君、新聞記者に興味ないかい?」
 クラウドの顔が、太陽のように輝いた。

 

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